図1.3 省エネルギー手法と効果の考え方1)
1.3 住宅の環境設計の考え方
1.3.1 環境計画・設計の考え方
図1.3に、省エネルギー手法とその効呆の考え方を示す。断熱気密化による基本温熱性能の向上及びパッシブ手法の導入は、室内環境の向上をもたらす。寒冷な東北地域においては特に冬期の室内環境の向上が居住者の健康維持に貢献すると期待される。また、これらの省エネルギー手法は、暖冷房エネルギー消費削減につながり、さらにはエネルギー購入量及び炭酸ガス排出量の削減ももたらす。従って、これらの手法を基本とする必要がある。
この手法を十分に導入することで暖房エネルギー及び暖房負荷をほとんどゼロにした住宅が、暖房設備を有しない住宅.通称「無暖房住宅」である。スウェーデンのヨーテボリ2050プロジェクトによるハンスイック設計の「無暖房住宅」は広く知られているが、東北においても無暖房住宅に近い住宅の実績がある。エネルギー供給が停止した非常時に冬期の室内環境を維持する手段としても有効である。また冷房エネルギーについては、東北の比較的冷涼な外気を生かしたパッシブ手法によって無冷房とすることが、ほとんどの東日本大震災の被災地域において可能性があると考えられる。
省エネ型設備や省エネ型の照明・家電の導入は、室内環境の向上の要因になる場合があるが、基本的にはエネルギー消費削減を目的とするものである。もちろん、エネルギー購入量及び炭酸ガス排出量の削減ももたらす。家庭のエネルギー消費の中で、給湯や照明、家電などの占める割合は60%程度と大きい。従って、効率的な暖冷房設備による省エネルギーや効率的な給湯機器、換気の熱回収、省エネルギー性能が高い照明及び家電の利用も望まれる。これらの具体的な効果については、機器や家電のマニュアルに記載されているエネルギー効率や省エネ基準達成率のラベル 文2) を参照し、自立循環型住宅への設計ガイドライン 文3) やCASBEE新築ー戸建のマニュアル 文4) が参考になる。
自然エネルギー利用設備の導入は、基本的にエネルギー消費削減を目的とするものである。もちろん、エネルギー購入量及び炭酸ガス排出量の削減ももたらす。太陽熱の利用については、暖房及び給湯に利用可能である。太陽光発電では、日中の発電による電力利用と売電、夜間の電力購入が実用化されており、発電ノ号ネルの面積を増やしても発電エネルギーを無駄にすることなく、電力収支をプラスにすることができるロこの電力収支の差を他のエネルギー消費と相殺できるとすると、以下のような考え方ができる。すなわち、一次エネルギーベースで、エネルギー収支がゼロであれば、ゼロエネルギー住宅となり、ゼロ以上であれば、創エネルギー住宅となる。
断熱気密化やパッシブ手法を基本としたゼロエネルギー住宅は、日常の経費が少なく、たとえエネルギー供給が停止した非常時においても、冬期の室内環境を維持しさらに日中を中心に常時に近い生活が可能となるなど、高齢者が多いとともに経済的な余裕が期待しづらい東日本大震災被災者の復興住宅に対しても理想形になりうると考えられる。
文献
2) 例えば、経済産業省.統一省エネルギーラベルのご案内
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0003895/009_s02_00.pdf
3) 監修:国土交通省国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所.準寒冷地版自立循環住宅への設計ガイドライン、エネルギー消費50%削減を目指す住宅設計、一般社団法人建築環境・省エネルギー機構企画・環境部、2012年7月
4) 一般社団法人建築環境・省エネルギー機構のホームベージよりダウンロード
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/cas_home/download_home/CASBEE-DH_NC_2016Manual.pdf
1.3.2 環境計画・設計の流れ
以上を踏まえて、ゼロエネルギー住宅の環境計画・設計の流れを以下に示す。地域の気候特性を考慮したゼロエネルギー住宅の環境計画・設計においては、居住者や敷地のコンテクスト(背景・経緯及び与条件)に対応した環境性能及び設備の計画、その効果予測に基づいた設計が必要となる。また、計画設計の各段階での居住者との合意形成や総合評価に基づくフイードバックも望まれる。
宮城県の住宅の省エネルギー基準における地域区分では、次世代省エネ地域区分ではⅡ地域とⅢ地域があると共に、同一地域においても、積雪強風などの特有の気候特性への対応が求められる場合、豊富な日射量や夏の外部風などの自然エネルギーの利用が期待される場合など、それぞれの住宅で詳細な地域適応が望まれる場合がある。
図1.4に、環境計画・設計の各段階における基本方針の概要を示すロまた、多様な手法を組み合わせるにあたって、典型的な組合せを提示することで、環境計画・設計の負担を軽減することを試みた。以下に環境計画・設計のための基本的な計画要素及び環境性能の総合評価について示す。
(1) 基本温熱性能計画
これまでに、住宅の省エネルギー基準では、暖冷房エネルギー消費削減の観点で、断熱気密性能及び日射遮蔽性能の必要性が示され、地域区分毎に熱損失係数Q値等による断熱性能の基準及び日射取得係数μ値の基準が規定されている。
みやぎ型ゼロエネルギー住宅では、HEAT20で定義されるG2レベル以上とする。
(2) パッシブ手法計画
宮城県の太平洋側の地域は冬期の日射量が多く日射熱の利用(ダイレクトゲイン)が期待され、パッシブソーラーの設計技術の利用が望まれる。また、対象地域には、首都圏以南とは異なり夏期の夜間の外気温低下が望めると共に、夏期の卓越風が期待できる地域があり、自然風の利用(パッシプクーリング)が望まれる。このように、地域の気候特定に応じたパッシブ手法の効果的な適用が望まれる。
(3) 換気暖冷房等設備計画
換気は、2003年のシックハウス対策のための建築基準法改正に規定されているように、不可欠の設計要素である。居住者の健康維持のために、使用する建材及び薬剤への配慮と併せて、適切な換気設計が必要である。常時換気に対する熱回収は、省エネルギー基準の熱損失係数:Q値の計算で考慮されるが、寒冷な地域では暖房エネルギー消費削減に一定の効呆を持っている。
暖房設備は、寒冷な地域における重要な設備である。暖房設備の種類は、断熱気密性能に次いで、暖房時の室内環境を左右する要因である。居住者の生活習慣や室の利用法等の条件の多様性に対応して、個別暖房と全室暖房の設備が考えられるが、屋内の寒さによるヒートショックや非暖房空間での結露が問題にならないことを念頭に設計する必要がある。
冷房については、パッシブ手法などで冷房の必要性を低めた上で、必要に応じて計画することが望まれる。また、全室を対象にすることがまれである実態を踏まえると、必要な場合に個別冷房設備を計画することになると考えられる。この他、給湯設備についても、使用量や地域の気象条件などに対応して計画する必要がある。
(4) 自然エネルギー利用設備計画
建物の基本温熱性能の向上やパッシプ手法の導入、節水や高効率機器・家電の利用等によって、エネルギー使用量が削減される。これらのエネルギーを自然エネルギー設備で賄うことで、エネルギー購入量を削減することができる。この削減は炭酸ガス排出量削減に資することになる。太陽熱は給湯や暖房等の熱源として、太陽光発電は多様な用途に利用できるほか、売電することができる。これらの利用により住宅のエネルギー収支をプラスすることが可能である。
(5) 環境性能の総合評価
以上の要素を踏まえた計画と、総合的な評価及び、必要に応じたフィードパックによる環境計画・設計が望まれる。環境性能の総合評価は専門知識を必要とする場合が多いが、次世代省エネルギー基準の解説、自立循環型住宅への設計ガイドライン、CASBEE戸建新築などの既往の知見を利用すると、比較的簡便に実施できる。この他、住宅の建設から居住、廃棄までの炭酸ガス排出量を削減するLCCM住宅 注に関する知見も有用である。
注
LCCM:ライフサイクルカーボンマイナス(LifeCycle Carbon Minus)住宅(以下LCCM住宅と略す)とは、住宅の建設・運用・解体・廃棄までの一生涯に排出するCO2を徹底的に減少させるさまざまな技術導入と、それらを使いこなす省エネ型生活行動を前提としたうえで、太陽光、太陽熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー利用によって、ライフサイクルトータルのCO2収支がマイナスとなる住宅のことである。平成21年4月より国土交通省住宅局の研究開発事業として,一般社団法人日本サステナブル・ビルディング・コンソーシアム(現日本サステナプル建築協会)内に「ライフサイクルカーボンマイナス住宅研究開発委員会(村上周三委員長)」 が発足し、3か年計画で研究開発を進めたものである。文5) を参照。
文献
5) 一般社団法人日本サステナプル建築協会ホームページ
http://www.jsbc.or.jp/lccm/